「その火を飛び越してこい。その火を飛び越してきたら」
『潮騒』三島由紀夫 本文より引用
はじめに
『潮騒』は、三島由紀夫による1954年発表の長編小説で、若い漁師の久保新治と海女の宮田初江の純愛を描いた物語です。舞台は、三重県鳥羽市の神島で、都会の影響を受けず、自然豊かな環境が特徴です。
あらすじ
物語は、新治が卒業後、漁業に従事し、島の有力者の娘である初江と出会い、恋に落ちるところから始まります。二人の関係は、周囲の妬みや噂によって一度は引き裂かれますが、やがて互いの真摯な気持ちが通じ合い、困難を乗り越えて再び結ばれます。
登場人物
久保新治(くぼ しんじ)
主人公。若くてたくましい漁師で、初江と恋に落ちる。
宮田初江(みやた はつえ)
ヒロイン。美しい海女で、新治と純粋な愛を育む
宮田照吉(みやた しょうきち)
初江の父。新治が初江と結婚することを許可する。
千代子(ちよこ)
灯台長の娘で、新治に好意を寄せるが初江に嫉妬する。
川本安夫(かわもと やすお)
新治のライバルで、初江をものにしようとする。
久保とみ(くぼ とみ)
新治の母。初江との関係を応援する。
大山十吉(おおやま じゅうきち)
漁師で、新治の助言者。
作家のエピソード
三島由紀夫は『潮騒』の舞台である神島を選ぶ際、水産庁に依頼して都会の影響を受けず、美しい漁村を探してもらいました。その結果、三重県の神島が選ばれました。三島はこの島が日本で唯一パチンコ店がない島であることに惹かれたと語っています。
さらに、三島は『潮騒』の執筆前に世界旅行をしており、古代ギリシアのイメージに強く影響を受けていました。そのため、神々を感じられる場所として神島を選び、自然の美しさと人々の純朴さを描くことを決めました。
作品内の焚火を飛び越えるシーンは、新治と初江の絆を象徴する重要な場面です。新治が嵐の中で火を起こし、その火を飛び越えることで二人の距離が縮まります。このシーンは、二人の純粋な愛と新治の勇気を象徴しています。
終わりに
『潮騒』は、道徳的で健全な愛をテーマにしており、三島の他の作品と比較しても非常に異質で読みやすいとされています。